02


「小十郎。気付いてるか?」

「はっ。森に入ってから付けられてますな」

気配の殺し方からして忍。

ここは国境。もしや甲斐の忍では、と小十郎は答えた。

「me too。俺もそう考えた。ただの様子見かそれとも隙を狙ってんのか」

「とにかくご油断召されるな、政宗様」

「OK」

あいにく俺の耳は優秀でね、二人の会話は聞こえてるんだ。

それにしても政宗様に小十郎とは。

「これはまさかするとまさかするかも…?」

スタッ、と木の枝に着地して俺は身に降りかかった有り得ない現象を認識し始めた。

しばらくついて行くと俺が山賊を倒した地点に辿り着いた。

もしかして山賊退治に来たのか?

下では倒れている男達を発見した伊達軍が、男達を叩き起こし、何やら話を聞いている。ちょっと丁寧とは言いがたいやり方で。

ふんふん。奥州筆頭伊達政宗様に竜の右目、片倉小十郎様ね。

「…こりゃ決定だな。俺の素晴らしい忍術は時をも越えたと」

さぁて、理解できた所でどうすっかな。

伊達軍一行は山賊のアジトへ向かうようだ。

暇だしついて行こうかな?この時代の伊達がどうだったのか興味もあるし。

政也様には悪いけど俺はちょっとばかしこの時代で遊んできます。







山賊のアジトは男達が倒れていた地点からそう遠くない場所にあった。

数に物言わせて今までやってきたのか山賊は人数が多いだけで強さは中の下、普通だった。

「伊達の御当主自ら出向く程の事じゃなかったな」

そして俺は、そんな事を呟きながら山賊を倒す伊達軍を言葉の通り高い場所から見下ろし、高みの見物を決め込んでいた。

「ちっ、せっかく出向いたのにこれじゃ意味ねぇぜ」

暇潰しにもならなかった、と不満そうに刀を振って血を払った政宗様に俺は苦笑した。

政也様そっくりな外見で同じ事を言ってる。外見がそっくりなら中身も同じなのか?

布の下に隠した口元でくくくっ、と音を出さずに笑った。

「で、いつまで覗いてるつもりだそこの忍?次はてめぇの番だぜ」

血を払った刀が俺とは逆方向へ向けられる。

瞬間、ガサッと音を立てて忍が姿を現し、政宗へとクナイの雨を降らせた。

それを小十郎が刀で全て弾き、政宗は一つしかない眼で忍を睨み付けた。

「てめぇ何処の忍だ?甲斐か?」

離れていても凄い覇気を感じる。

真っ向からあてられたらヤバイだろうなぁ、と俺はじっとり濡れた掌を握った。

気配を悟られ居場所を捕まれてる時点で忍としては失格だ。

あの忍、一流とは言えないな。

俺は一つ欠伸をして傷だらけになって捕まった忍を冷めた目で見下ろした。

小十郎様は忍を逃がさないようその腕を捕らえ、地に押さえつけている。

「さぁ吐いてもらおうか。てめぇの飼い主は誰だ?」

「…くっ」

忍は表情を歪め、ほんの一瞬、上から全体を見ていた俺だから気づく事が出来たが、どこかへ視線を投げた。

何だ?嫌な予感がする。

ザッと視線を巡らせ、気配を探る。

「―っ!」

政宗様から見て右斜め後方にもう一人いる!

キラリと光る得物に気づいた俺は咄嗟に動いていた。

政宗様の背を守るように伊達軍の中に飛び降り、向かってきたクナイを弾く。

―キンッ!

目の端に驚いた顔をした政宗様と小十郎様、伊達の兵を捉えながら俺は敵の伏兵が潜む茂みに飛び込んだ。

「伊達を敵に回したのが運のつきだ」

当て身を喰らわせ、気絶させた。

勝手に殺しちゃまずいし、命令を下した奴を吐いてもらわなきゃならないからな。

俺は武器を取り上げると体を縛り上げ、引き摺るように茂みから出た。

そこには刀の柄に手をかけた小十郎様とどこか面白そうにこちらを見つめる政宗様がいた。



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